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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)1586号 判決 1959年7月07日

第一五八六号控訴人 第一審原告 高橋昇二

第一八六四号控訴人 第一審被告 吉田ヨキ

主文

第一審原告ならびに第一審被告の各控訴はいずれもこれを棄却する。

控訴費用は第一五八六号事件については第一審原告の負担とし、第一八六四号事件については第一審被告の負担とする。

事  実<省略>

理由

当裁判所が、第一審原告の本訴請求ならびに第一審被告の反訴請求をそれぞれ正当と認めて認容した理由は、つぎのとおり訂正補充するほか第一審判決理由と同一であるからこれを引用する。

(一)  第一審原告の本訴請求について

原判決書六枚目の表第一行目に乙第二号証の一、二とあるのを、乙第三号証の一、二と訂正し

(二)  第一審被告の反訴請求について

第一審原告は、「第一審原告が訴外松本きみ子と肉体関係のあつたことについては既に第一審被告の宥恕を受けているから右は離婚の原因たる事由に該当しない。」と主張するから調べてみると、その成立に争がないことから、当裁判所が真正に成立したものと認める乙第二号証によれば、第一審原告は昭和二十六年十二月十五日第一審被告に対し、従前他の女性と交渉のあつたことの非を認め、今後かかる関係を断絶することを誓う旨の誓約書を差し入れたことが認められるけれども、これはあくまで第一審原告の謝罪に過ぎず、これを受領した第一審被告がこれにより第一審原告の不貞行為を全面的に宥恕したものとは認められないばかりでなく、仮にこれを第一審被告の宥恕と解し得るとしても、現行民法の下においては離婚原因に対する宥恕は裁判所が婚姻継続を相当と認めて離婚請求を棄却する事情を認定する一つの資料になることはあつても旧民法のように宥恕者の離婚請求権を当然に消滅させるものでないことは明白である。そして原審証人園村きよ、同浦田唯市、同鈴木君子(一、二回とも)の各証言原審における第一審被告本人尋問の結果(一回ないし三回)を総合すると、第一審原告は第一審被告に対し前記誓約書を差し入れた後においても依然その行状が改まらないため第一審被告と融和するに至らず、遂に昭和二十七年五月一日第一審被告と二児を遺して無断で家出をし諸所を転々とするに至つたこと、第一審被告は現在においても第一審原告との婚姻を継続する意思をもつていないことが認められる。上叙の事実によれば、たとえ第一審被告において、第一審原告から前記のような誓約書を受領した事実があるにしても、第一審原告に、原判決認定のような不貞行為ならびに悪意の遺棄と認むべき行為の存することが認められる以上第一審被告と第一審原告とを離婚するのが相当であると認める。

(三)  当審における第一審原告本人尋問の結果その他第一審原告の提出援用にかかる凡ての証拠を以てしても以上の判断を左右するに足りない。

よつて(一)昭和二十七年八月十一日受付第六八四〇号で東京都台東区長に対する届出によりなした第一審原告と第一審被告との協議離婚の無効確認を求める第一審原告の本訴請求を認容し、(二)第一審被告と第一審原告との離婚を求める第一審被告の反訴請求を認容し、第一審被告と第一審原告間の長男正典、長女カヅ子の親権者を第一審被告と定めた原判決は正当であるから民事訴訟法第三百八十四条により本件控訴はいずれも棄却し、控訴費用の負担につき同法第九十五条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥田嘉治 裁判官 岸上康夫 裁判官 下関忠義)

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